間 建築設計事務所
AWAI ARCHITECTS / ZUSHI, KANAGAWA
ISSUE 14 ─ 2026

建てないことも、 する。

敷地に対して、建物が答えとは限りません。私たちは2011年から、住宅と小さな公共空間を142件手がけてきました。そのうち9件は、建てないという結論に至っています。

建てなかった家、鎌倉の既存住宅
fig.001
建てなかった家/鎌倉
SCROLL
P.001

CONTENTS ─ 目次

01 ─ STATEMENT

竣工した日が、いちばん良い状態である建物を、私たちは良い建物だと思っていません。 引き渡しの三年後に、廊下の突き当たりに置かれた本棚。十年後に、子ども部屋の壁がなくなって一室に戻ったこと。そういう変更を、図面のうえで先に許しておくこと。それが設計だと考えています。 だから私たちの図面には、用途の書かれていない場所が必ず一つあります。施主には「ここは、まだ決めていません」と説明します。決めないことを、決めています。 2011年の設立以来、142件。うち9件は、増築でも新築でもなく、既存を減らす提案で終わりました。設計料はいただきましたが、建物は建っていません。それも仕事だと思っています。

用途の書かれていない場所を、一つだけ残す。

三重の庇の家の南側外観。三枚の庇が段状に重なる。

三重の庇の家

KANAGAWA, ZUSHI ─ 2023
001
所在神奈川県逗子市
用途専用住宅
延床96.4 m²
構造木造2階建
竣工2023.11
海から徒歩八分、風の強い斜面地。屋根を一枚で架けると、南からの光が全部入ってしまう敷地でした。 そこで庇を三枚に割り、季節ごとに使う庇を変えられるようにしています。夏は一番深い庇の下、冬は一番浅い庇の下。住み手の福井さんご夫妻は、二年目の冬から、二枚目の庇の下で朝食をとるようになったそうです。私たちが想定していなかった使い方でした。

庇を三枚に割る。

庇 03 ─ 出 600 庇 02 ─ 出 1,200 庇 01 ─ 出 2,100 2,100 離れ(設計時 用途未定) S=1:200 南北断面図
灰の図書室の外観。灰色の左官仕上げの箱に細い開口が並ぶ。

灰の図書室

NAGANO, KOMORO ─ 2021
002
所在長野県小諸市
用途私設図書館
延床142.0 m²
構造RC造平屋
竣工2021.04
蔵書一万二千冊を預かる建物に、大きな窓はいりませんでした。開口は幅120mmを17本。本を傷めない量の光だけを、床に落としています。 外壁は、浅間山の火山灰を骨材に混ぜた左官仕上げ。雨に濡れると色が沈み、乾くとまた明るくなります。竣工から五年、まだ同じ色を見たことがありません。

120mmの光を、17本。

142件の索引

ARCHIVE 2011 ─ 2026 / DRAG OR SCROLL
2011
最初の一件
横浜市/改修
設計料 38万円。祖母の家の水回りだけ。
2014
半分だけの倉庫
三浦市/新築
予算が足りず、半分を未施工のまま引き渡した。
2016
崖の上の平屋
葉山町/新築
JIA新人賞。所員は当時2人。
2019
無音の茶室
京都市/新築
床面積4.1m²。うち1.8m²は使途未定。
2020
建てなかった家
鎌倉市/計画のみ
既存を減築する案を提出。施主が採用。
2021
灰の図書室
小諸市/新築
火山灰左官。日本建築学会作品選集2022。
2022
余白のクリニック
世田谷区/新築
待合室を、診察室より広くした。
2023
三重の庇の家
逗子市/新築
庇を3枚に。グッドデザイン賞。
2024
稜線のオフィス
富山市/新築
階段だけで全体の18%。
2026
進行中 ─ 7件
うち2件は、建てるかどうかを検討中。
142 PROJECTS9 UNBUILT ─ BY CHOICE

05 ─ FACTS

0
竣工実績2011年の設立から、2026年7月まで
0
建てなかった案件減築・用途変更で完了したもの
0
所員うち一級建築士4名、構造担当1名
最も長い付き合い2012年の施主から、三度目の相談

06 ─ MEMBERS

三重の庇の家 内観
天野担当
三重の庇の家 内観

天野 悠一郎主宰/一級建築士 AMANO YUICHIRO

1979年 富山県生まれ。大学では地質学を専攻し、卒業後に設計へ。「敷地は建築より先に何千年もそこにある」が口ぐせ。現場では、いつも巻尺より先に鉛筆を落とす。

灰の図書室 閲覧室
志村担当
灰の図書室 閲覧室

志村 千秋パートナー/一級建築士 SHIMURA CHIAKI

1985年 東京都生まれ。灰の図書室の担当。左官職人と半年かけて41回の試し塗りをした。「決まらない色を、決まらないまま出す勇気が要る」

余白のクリニック 待合
大久保担当
余白のクリニック 待合

大久保 玲設計担当 OKUBO REI

1994年 長崎県生まれ。模型は必ず1/30でつくる。「1/100だと、人が座れるかどうかで嘘をつけてしまうので」

ほか3名、と1匹藤代 尚人/構造 石動 麻衣/監理 久我 直子/総務 + 事務所犬 サブ(保護犬・9歳)

サブは打ち合わせのあいだ、いつも模型のいちばん近くで寝ています。施主の子どもが最初に覚えるのは、たいてい設計者の名前ではなくこの犬の名前です。

07 ─ PROCESS

01

敷地を、二回歩く

一回目は施主と、二回目はひとりで。天気の違う日を選びます。ここまでは無料です。

02

建てない案を、必ず一つ出す

三案のうち一案は、建てない/減らす提案にします。比較のためではなく、本気の案として。

03

1/30の模型で、家具まで置く

図面より先に模型を見てもらいます。椅子が入らない設計は、この時点で消えます。

04

用途未定の場所を、一つ決める

どこを「決めない」かを、施主と一緒に決めます。ここがいちばん時間がかかります。

05

引き渡しの三年後に、また伺う

写真を撮らせてもらいます。次の設計のために。142件のうち118件で続いています。